個人事業主に該当し、これまで従業員なども雇わずに家族経営で仕事を進めている方が建設業許可を取得する必要が生じた場合、どのような方法で取得すればよいのでしょうか?
例えば、次のような場合において個人事業主であっても建設業許可の取得を考えることでしょう。
- 工事を受注する際に元請け業者から取得を求められた
- 許可がないために受注ができなかった
- 受注案件が500万円以上となった
- 公共工事を受注したい
建設業許可の取得は難しいものです。いざ取得するとなった時に必要となる費用や方法、メリットやデメリットなどについて確認していきましょう。
建設業許可は個人事業主でも取得できる
法人化していない個人事業主であっても建設業許可を取得することは可能です。
従業員を一人も雇わない、いわゆる一人親方でも取得ができます。
建設業の許可は「軽微な建設工事」のみを請け負って営業する者以外は、建設業の許可を受けなければなりません。
「軽微な建設工事」にあたらない受注範囲内であれば許可は必要ありませんが、様々な事情で許可が必要となる場面が出てくると思います。
例えば、元請業者から許可の取得を求められたり「500万円以上の工事を受注することになった」「今後の事業規模を拡大したい」と考えて取得するケースが考えられます。
許可取得の要件は法人と同じ
個人事業主の建設業許可の取得要件は大枠としては法人と同じです。共通部分は、4つの許可要件と欠格要件に該当しないことです。
- 経営業務の管理責任者の設置が必要
- 営業所に常勤する専任技術者の設置
- 不正、不誠実な行為をしない誠実性が求められる
- 一定の自己資本や資金調達能力を証明する
- 欠格要件に該当しないこと
それぞれの要件についてみていきましょう。
経営業務の管理責任者の設置が必要
個人事業主においては、経営の管理・執行経験がある本人が管理責任者となります。
要件として許可を受けたい業種で5年以上(他業種であれば6年以上)の経営経験が必要です。
営業所に常勤する専任技術者の設置
許可を受ける営業所ごとに専任技術者の設置が義務付けられます。従業員を雇わずに一人で業務を行う場合、個人事業主本人が専任技術者に該当する必要があります。
- 業種毎に必要とされる国家資格
- 10年以上の実務経験
- 指定学科の卒業+3年~5年の実務経験
上記いずれかに該当する必要があります。
不正、不誠実な行為をしない誠実性が求められる
不正な行為、不誠実な行為とは契約締結において詐欺や脅迫、横領などをしないことを指します。
信用が重要な建設業においては、誠実性が求められています。
一定の自己資本や資金調達能力を証明する
一定の自己資本とは自己資本が500万円以上あること、又は500万円以上の資金調達能力を有することのいずれかに該当することが求められる要件です。
- 500万円以上の預金の残高証明書
- 直近の決算における貸借対照表上の純資産額が500万円以上
上記の証明が必要となります。
欠格要件に該当しないこと
建設業法で定める欠格要件に該当しないことが必要です。具体的には許可に相応しくない行為、財産管理能力や意思能力に問題がある場合などが該当します。
- 建設業法違反により営業停止などの処分を受けていて、処分期間を経過しない者
- 破産者で復権を得ない者
- 精神の障害により建設業を営むために必要な判断、意思疎通ができない者
などが1例として挙げられます。
個人事業主が建設業許可を新規で取得する際の費用は9~15万円
個人事業主が建設業の許可を取得する場合に掛かる費用は、大きく分けて3つにわかれます。
- 申請手数料
- 添付書類取得費用
- 行政書士報酬
最低限必要となる費用は、登録に必要な申請手数料と申請に必要な添付書類を取得するための費用です。
別途行政書士に依頼したときには、報酬として10万円~20万円程度掛かります。
許可の種類 | 新規申請の手数料 |
---|---|
大臣許可 | 150,000円 |
知事許可 | 90,000円 |
申請に必要な書類の発行先が様々ですので費用以外にも取得に要する時間が掛かります。
例えば、必要書類のなかに「身分証明書」がありますが、こちらは本籍地でのみ取得が可能です。
身分証明書は本籍地が遠方にあり郵送でしか申請できない場合があります。
「登記されていないことの証明書」は取得先が法務局になりますが、東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の本局の戸籍課と限定されています。
法人に比べて必要書類が少ない
法人である場合には、履歴事項全部証明書(会社の登記簿謄本)や定款といった法人特有の書類が必要となります。
会社である以上、会社の事業目的などが取得しようとする建設業の許可と齟齬が生じないように確認する必要があります。登記事項がきちんと登記されているかも確認されます。
また令和2年10月1日施行の建設業法の改正により「適切な社会保険に加入していること」が許可要件となっています。
法人ですと社会保険の適用事業所として健康保険・厚生年金保険の加入が必須ですのでこれらの加入を済ませた上で、それらの保険料をきちんと納めた領収書の写しを添付する必要があります。
雇用保険の対象労働者がいれば、雇用保険に関する確認書類も必要となります。
個人事業主である場合は法人ならではのこれらの書類が必要ありません。
一方で「適切な社会保険に加入していること」は個人事業主にも該当しますので、国民健康保険・国民年金の保険料領収書の写しが必要となります。
個人事業主が建設業許可を取得するメリット
個人事業主が建設業の許可を取得するメリットは受注金額の拡大、公共事業の受注が可能になる、元請業者などからの信用力の高まりなどにより受注を受けやすくなることなどが挙げられます。
- 請負金額500万円以上の建設工事を受注できる
- 信用力が高まり発注を受けやすくなる
- 法人設立費用が抑えられる
建設業許可を取得するメリットについてみていきましょう。
請負金額500万円以上の建設工事を受注できる
建設業の許可を取得することで、受注金額の制限がなくなり、より大きな規模の工事を請け負うことが可能となります。
受注実績が積み上がれば、更なる受注も受けやすくなります。
工事自体が500万円を超えなくとも、材料費を合わせると500万円を超えたり、工種の異なる複数の契約を合算した場合に超えてしまうなど予期せぬ事態に備えることもできます。
信用力が高まり発注を受けやすくなる
コンプライアンス遵守の風潮の高まりから、元請業者から下請業者に対して建設業の許可取得を求めることがあります。
これまでの受注実績から信頼を得ることもありますが、行政からの審査を通った証明でもありますのでよりわかりやすく信用力を高めることにつながります。
同じ規模、同じ経験の業者において、許可がある業者とない業者であればもちろん許可取得済みの方が受注する際に有利に働くでしょう。
法人設立費用が抑えられる
個人事業主として法人成りの予定がないのであれば、個人事業主として建設業の許可を受けることで法人ならではの費用を抑えることができます。
法人として設立する場合には、設立登記に必要な登記費用、税務署への届出、社会保険の適用事業所該当届や司法書士や税理士、社会保険労務士といった各士業に依頼した場合の報酬が必要となりますが、これらの費用が不要となります。
個人事業主が建設業許可を取得するデメリット
次に、法人化せずに個人事業主として建設業の許可を取得した場合のデメリットや、建設業の許可を取得した場合における許可前では必要のなかった届出に関するデメリットを確認します。
- 経営管理者は事業主しかなれず事業の拡大が難しい
- 法人と比べて金融機関の融資を受けにくい
- 事業年度終了時に決算報告書を提出しなければならない
場合によっては法人化してから建設業許可を取得する方がいいケースもあります。
経営管理者は事業主しかなれず事業の拡大が難しい
個人事業主が建設業の許可を取得する場合における経営管理者は事業主本人しかなれません。
法人であれば経営経験豊かな許可要件を充たす人材を取得する方法も取れます。
個人事業主の場合、経営管理者と事業主本人が同一人物となるため経営業務に集中するための時間を捻出できなかったり、経営の幅に制約が掛かり事業の拡大が難しくなります。
法人と比べて金融機関の融資を受けにくい
金融機関で融資を受ける際には、法人と個人事業主とで明確な差があるわけではありませんが、法人ですと設立登記をして定款を作り、会社として求めれる管理体制が敷かれるため個人事業主よりも融資のハードルは下がると考えられます。
個人事業主の方が、融資判断のための拠り所となる情報が少ないと見られ融資を受けにくい可能性があります。
事業年度終了時に決算報告書を提出しなければならない
建設業の許可取得後、決算日から4ヶ月以内に毎年決算報告をする義務があります。
仮に決算報告を怠った場合に、直ちに許可の取消にはなりませんが、業種追加など申請が必要となる場合には申請を受け付けてもらえません。
また建設業の許可には5年間の有効期間があり、更新前に1期でも決算報告書の届出もれがあると更新申請を受け付けてもらえません。
更新申請が通らないと最悪の場合許可が失効してしまうので注意が必要です。
個人事業主の建設業許可に関するよくある質問
これまで個人事業主の建設業許可の取得方法等確認しましたが、よくある質問について以下にまとめたので参考にしてください。
社会保険の加入は任意ですか?
法人であれば、健康保険・厚生年金保険の加入が必須であり、雇用保険対象労働者を従業員として雇いれた場合には雇用保険の加入も必要となります。
個人事業主で従業員が一人もいなければ、個人事業主本人の国民健康保険・国民年金の加入が義務となります。
法人成りの際は新たに許可を取る必要がありますか?
令和2年10月1日施行の建設業法改正により建設業者の地位の承継が可能となりましたので、要件に該当すれば新たな許可は必要ありません。
改正前は法人成りの際の許可については、個人で取得した建設業許可を廃業申請し、新たに設立した法人として許可の新規取得をする必要がありました。
この方法ですと新しい許可が下りるまでに無許可期間が生じてしまい不利益となっていました。
改正によりこの無許可期間をなくし、個人で取得した建設業の許可を新しく設立した法人へ承継することが可能となりました。
個人事業主の建設業許可申請は自分でできますか?
個人事業主の建設業許可申請はもちろんご自身で行うことも可能です。
申請方法の手引きは各申請窓口となる都道府県等でHP上に公開もされていますし、申請窓口に相談に行けば対応もしてくれます。
懸念としては、通常業務の忙しい合間を縫って申請のための時間を捻出したり、申請書を作成する時間や万が一申請に不備があった場合の対応などがあげられます。
費用は掛かりますが、その分の時間を本業に専念できる、申請したものの許可が下りずに申請費用が無駄になったということがないように専門家である行政書士に依頼することも検討されてはいかがでしょうか。